佐束ファーム|静岡県掛川市|集落営農法人

代表メッセージ

掛川のまちに、実りある未来を農業再生への挑戦

青々とした稲穂が一斉に涼風になびく夏、そして黄金の実りが一面に広がる秋の田園風景。
都会の喧騒から離れてふるさとへ戻ると、のどかな風景に心が癒されるものです。

しかしそんなイメージは、あと10 年もするとなくなってしまう危険性があります。
なぜなら、田んぼで農業をやる人がいなくなってしまうからです。それは、わがまち・掛川市も例外ではありません。

農業をやる人がいなくなると、農地だった場所が荒れ、人々の生活にまで悪影響を及ぼし、いずれは街が壊れてしまいます。

でも、今から立ち上がれば、何とかなるかもしれません。
いえ、何とかしなければならないのです。
そのためには、皆さんのご理解とご協力が必要です。掛川から離れて暮らしている方々も、「ふるさと納税」などを通してご協力いただくことが可能です。
そこで、まずは危機的な状況に瀕した掛川の農業の実態についてわかりやすくご説明します。

代表取締役 飯田 政明
CONTENTS
稲作の基礎知識

農地は、面積の単位を反(タン)=1,000m²で表現します。また、10反のことをha(ヘクタール)と言います。
1反の水田で、お米が8~9俵収穫できます。今から約30年前までは1人が年間に約2俵お米を食べていたので、1反の水田で4人分のお米をまかなえました。
しかし最近は1人年間1俵に減ったため、1反で8人分まかなえることになります。

水田は全国に約250万haあり、最近では、その半分の面積で日本人全体のお米の量が足りてしまいます。
つまり、昔は全部の水田を使ってお米を作っていましたが、最近では半分になってしまったわけです。
全国の数値では大きすぎてイメージがつかないかもしれませんが、掛川市には水田が2000ha弱あり、そのうち1500haでお米を作っています。
この1500haのお米で、掛川市の市民12万人分のご飯がちょうどまかなわれています。
つまり、掛川地域に限って言えば、「お米の需給バランスがとれている」ということになります。一方、静岡県全体でみると、お米の消費量が生産量よりも3倍程度多く、「お米の消費県」となっています。

掛川の稲作

掛川市には、大体1つの小学校区域内に約100haの水田があります。
その100haの水田を、70人程度の高齢者がおのおの耕作している地域もあるし、農業法人をつくって数人で耕作している地域もあります。
掛川南部(旧大東・大須賀)は、昔から集落営農(グループで)で稲作をしてきた経緯があり、現在は7社の農業法人に分かれています。
一方、掛川北部では法人化が遅れていて、まだ1つもありません。しかし、個人でも法人に負けないくらい元気な農家もあります。
先に述べたように、掛川市の南部には現在7社の農業法人があり、日本有数の集落営農地帯として知られています。
そのうちの1社である私たち「佐束ファーム」の耕作地は、現在約70haあります。
最近は全国的にみて、1社で地域の水田のほとんどを耕作するのが一般化しています。
国内の農業法人のなかには、1社で300ha~400haを耕作しているケースもあり、もっと広い地域を丸ごと1社が耕作している例も出てきています。しかし全国的にみると、高齢者の個人が耕作している面積が圧倒的に多いのが現状です。

農業って儲かるの?

農業への就業を考える人にとっては、「家族を養っていけるだけの収入を得られるか」が最も重要な関心事です。そこで、1反あたりの大まかな収支データを下記にまとめました。

【水田1反あたりの一般的な収支データ】
売上 12万円/15,000円/俵 ×8俵
外部流出費用 肥料:1.5万円
農薬:1.5万円
機械:3万円
地代・水代:1万円
燃料・電気他:1.5万円
合計:8.5万円
差益 3.5 万円(人件費、利益、投資)

日本の農家の耕作面積の平均は、1件あたり2~3ha(20-30反)です。
上記の表にもとづいて収支を考えると、もし仮に3haの耕作地を持っているとしても、付加価値は100万円程度にしかなりません。売上がもっと少なかったり、費用がもっと多かったりすれば、50万円程度という可能性もあります。
これでは、若い人が農業に就くはずがありません。だって、業(生業)にならないのですから。
せいぜい、お年寄が年金をもらいながら趣味でやる程度しか収入が得られないのです。ですから、当然のごとく「規模拡大」が必要とされます。

それでは、農家1人でどこまで面積を拡大できるのでしょうか。
そのためにはまず、
・基盤整備をして田んぼを広くする
・パイプラインを施設して水管理を容易にする
・田んぼを集積して隣から隣へ、そしてまた隣へとスムーズに耕作を行えるようにする
・・・といった対策が必要です。
さらに、大型の農業機械を導入することで、農家1人あたり20ha程度までは拡大が可能です。

しかし私は、1人15haでも良いのではないかと考えています。
1人あたり15haあれば、前述の表にもとづく付加価値の合計は525万円。
さらに、規模拡大により1haあたり1万円程度費用の削減が期待できるので、675万円程度にはなります。
そこまで付加価値があれば、他の産業に負けないくらいの収入も可能になるのではないでしょうか。

結論として、「農業は儲かるのか?」という質問に対する答えは、
■耕作面積が少ないと儲からない → 小農(ショウノウ)
■耕作面積を拡大できれば儲かる → 業(生業)農(ゴウノウ)

ということになります。
つまり、耕作面積を拡大すれば十分に儲かるということです。

高齢化の現状は?

日本の産業は、就業者の高齢化と人手不足が深刻な課題となっています。もちろん農業においてもそれは同じです。前述したように、現状のような面積や付加価値では、年金をもらいながらの高齢者しか農業はできません。
私が農業に取り組み始めて10年になりますが、その間に私の周囲で若い人、あるいは60歳で定年退職後に実家の農業を継いだという人はほとんどいません。
特に気がかりなのは、60歳過ぎの方の就農が全く途絶えてしまったことです。
その原因は、65歳定年制や再雇用制度の普及や、親の農業をみたことのない年代だからだろうと推測できますが、農業を継ぐ人が誰もいないというのは緊急事態です。

現在は農業従事者のほとんどが70歳以上です。しかし、まだ地域の農地が全面的に放棄されるという状況には至っていません。これらの高齢者は地域を荒廃させてはいけないという思いが強く、誰かが終農すると、自分が高齢であることは顧みず何とかその分も耕作してあげようと奮闘しているのです。80歳でバリバリの現役という人も頻繁に見かけます。つまり、高齢化は進んでいますが、面積や規模はそれなりに拡大しているということになります。
後継者の不在問題は、個人に限ったことではありません。農業法人も元々は高齢者たちが立ち上げたものですが、事業を引き継ぐ人がいません。もう限界ギリギリです。
誰かが終農したら、どうしようもありません。水田を放棄するしか道はないのです。
しかも、1人あたりの耕作面積が拡大しているので、1人が終農すると一度に広い面積が放棄されてしまいます。実際に、50ha、100ha単位での放棄発生の便りがちらほらと聞こえ始めてきました。
限界寸前の集落が全国のあちこちに散在しています。このままでは、あと10年は持たないでしょう。

わがまち・掛川市も例外ではなく、旧掛川市の北部、旧大東・大須賀地区の掛川市南部の半分は、10年後に農地の全面放棄を覚悟する必要があります。

掛川の農地が全面放棄されてしまうと、どうなるかわかりますか?
・・・そうです。掛川のまち全体が崩壊してしまいます。
だからこそ、これは農業に関わる人だけでなく、まち全体に関わる問題なのです。

掛川市の農業的特徴は

では次に、掛川の農業に焦点をあてて考えてみましょう。掛川を含む遠州地方は、温暖で生活しやすい地域だということは皆さん実感されていると思います。 農業の面からみても、それと同様です。掛川地域には、農業地として以下のようなメリットがあります。

(1)収穫期間が長いため、耕作面積を広く確保できます。
遠州地方では、4月に1回目の種まき・田植、5月に2回目の種まき・田植、6月に3回目の種まき・田植を行うことができます。秋は8月、9月、10月に収穫が可能となり、収穫の期間を長く確保できます。そのため、1回か2回しか種まき・田植ができない東北地方に比べて1人あたりの耕作面積を広く確保でき、規模拡大が容易です。

(2)お米の消費県なので、販売利益が高くなります。
前述のように、静岡県はお米の消費が生産を上回っています。そのため、まさに地産地消を実現でき、物流費がかからない分、販売利益を多く得られます。
東北地方で作ったお米は首都圏での消費が主なので、物流費が1俵あたり約2千円程度かかるそうです。

(3)冬温暖で雪が降らないため、冬の野菜栽培ができます。
お米を栽培するのは春から秋なので、どうしても冬に「はざかい期」ができてしまいます。しかし、遠州地方は冬でも温暖で雪が降らないため、野菜を栽培することができます。これは、年間の収入を上げて「業(生業)農」を実現するための条件としては非常に魅力的です。
全国的にみても、冬の降雪がないのは遠州地方を含めて数か所に限られます。

こんなに農業に適した場所で農業をダメにしてしまうだなんて、あってはならないことです。遠州地方がダメになるなら、全国の農業がダメになってしまうでしょう。

掛川の農業の未来は!?

今まで私は、掛川の農家の方々や、静岡県の行政の方々、県内各地の農業法人会、県外から視察に訪れた方々など、いろいろな方と水田農業の将来について議論を重ねてきました。その結果、断定するには至りませんが、次のような感触を得ています。
磐田市・袋井市の農業は大丈夫そうですが、掛川市・菊川市・御前崎市の農業は本当にヤバいです。10年後には、田んぼの約半分の放棄は免れないでしょう。

では、なぜそう思うのかをご説明します。

まず、磐田市や袋井市の農業が大丈夫そうだという理由は、現時点で「業農」になっているからです。これらの地域では、個人であっても親の時代に規模拡大・投資を行い、食べていける農業になっていることで、子どもが農業を引き継いでいるケースが数多くあります。それらの農家は面積的に1人あたり最低30haは耕作しています。法人化したり、個人のままだったりと形態はさまざまですが、それは何も問題ありません。
一方、先程私が「ヤバい」と述べた掛川・菊川・御前崎地区はどうなっているかというと、耕作者は70歳以上の高齢者が大半です。耕作面積も10ha以下が一般的で、年金をもらいながらの農業しかできず、「業農」とはとても言えません。
これらの地域で、たとえば高齢者30人が80haの農地を耕作していたとして、今後数年間で全員がバタバタと終農してしまう可能性があるとしたら、その後は一体どうすればいいのでしょうか。
新たな高齢者をすぐに30人見つけるなんて、できるわけがありません。普通に考えれば、各集落の農家の中でもまだ比較的若い高齢者か、どこかから若い人材を見つけてきてお願いするしかなくなってしまいます。しかし、それを引き受ける側はどうなるでしょうか。数年の間に耕作地が80ha以上に規模拡大することになります。
ここで追い打ちをかける難題があります。それは、「稲作には多大な投資が必要である」ことです。トラクター、コンバイン、田植機、ライス設備、育苗ハウス等、すべてそろえるとしたら、50ha規模の水田で1億円、100ha規模で2億円の投資が必要となります。
つまり、新たな耕作者を見つけるだけでなく、多大な投資も必要となるのです。気持ち的にはやる気があっても、それだけ投資が必要となると二の足を踏んでしまうのが一般的ではないでしょうか。
ですから、結果的に全面放棄となる可能性が非常に高いのです。

農地が放棄されたら?

もしも掛川の農地が全面放棄されたら、地域の環境が悪くなるのは必然です。しかし、実際にそうなってみないと状況がわからないのが実情ではないでしょうか。
以前、農業者十数人と連れ立って、既に1/3の水田が放棄されている地域を視察に行ったことがありました。放棄田の農道を歩いてみると、全員声を失いました。放棄1年目はまだ草まみれの程度ですが、2年目、3年目と時間が経つにつれ原野の状態となり、マムシの巣窟と化していました。
もしもご自宅の脇の水田が放棄されたら、周辺の住人は逃げ出したくなってしまうでしょう。マムシがひしめく原野の脇を子どもたちが通学したり、遊んだりするだなんて、想像しただけで恐ろしいことです。お祭りで山車が農道を練ることもできなくなるでしょう。
こうした状況は、実際に荒廃してからでないとなかなか気づきません。電気やガス、水道、道路と同様に、田んぼも「インフラ」の1つです。無くなって(荒廃して)から始めてその重要性に気づくのです。同じインフラでも電気やガス、水道はみんな有料なのに、田んぼは無料が当然です。それって、おかしいと思いませんか?

農地が全面放棄されれば、若い人から順に地域を逃げ出してしまうでしょう。少なくともこの地域に移住してくる人は確実にいなくなります。そして、街はどんどんさびれ、人口は減少の一途をたどります。子どもの数も減って小学校は複式学級になり、地域の高齢者だけが取り残されて、過疎化がさらに進むといった悪循環に陥ることでしょう。
わがまち・掛川市は温暖な気候に恵まれ、農業にも生活にも適した地域であるため、「過疎の街になってしまうなんて考えられない」というのが従来の認識でした。
しかし、このままでは確実に、いずれは街が壊れてしまいます。

掛川のまちを守るには

では、掛川のまちが崩壊しないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。
その対策として最も有効なのが、「業(生業)農再生(ゴウノウサイセイ)」です。
「食べていける農業」にしていくしかありません。

昭和40年代までは、農家の人々は農業収入で食べていけたのです。私も親の農業収入で育ててもらいました。少ない収入だったと思いますが、それは紛れもなく「業農」でした。

現在は当時とは大きく環境が変わってしまいましたが、もう一度「業農」をつくるべきです。だから「再生」なのです。それしか道はないと思います。

これまで、「農業再生」という言葉は、さまざまな場面で安易に使われてきました。
しかし、実際は全く進展することなく、単なる「絵空事」でしかありません。
しかし、これからは愚直に「農業再生」を進めていかなければ、街の未来はありません。

農業再生のために、重要なことを以下にまとめます。
ぜひ現状をご理解の上で、1人でも多くの皆さんにご協力をお願いします。

掛川の農業をみんなで守ろう!
農業者まかせでは危機を回避できません。地域・役所・JAが一体となって取り組む必要があります。
農地の放棄が始まってからでは遅すぎます。とにかく今すぐ動き出すことです。
規模拡大には多大な投資を伴いますが、それがなければ前に進みません。